最高裁判所第三小法廷 昭和33(オ)1121 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人元木守の上告理由第一点について。
論旨は、原審に判断遺脱の違法があると主張する。
しかしながら、被上告人が本件賃借店舗の一部をその賃貸人である上告人の同意
を得ないで恣に住居に改造したとの事実を記載した所論の昭和三三年九月三日附上
告人の陳述書は、原審口頭弁論において陳述せられた事迹を認めがたく、その他右
事実の主張せられた形迹を記録上見出し得ない。従つて原審がこの事実につき判断
しなかつたのは当然であり、而も原判決によれば、原審が、本件建物は賃借人であ
る被上告人において店舗並に住居として使用して居り、その中店舗として使用して
居る部分の面積は、六坪を超過しないことを認定して、本件賃貸借については地代
家賃統制令の適用あるものと判断して居ること明かであるから、原審に所論判断遺
脱の違法はない。
論旨は理由がない。
同第二点について。
論旨は、本件家屋が店舗用に建築せられたにも拘らず、賃貸人である上告人の同
意を得ないで賃借人である被上告人において恣にこれを住居に改造したものであつ
て、かゝる場合、地代家賃統制令の適用がないと主張し、原審が同令を適用して居
ることを非難する如くである。
しかしながら、右主張事実は、原審の認定しない所であつて、かゝる事実を前提
として原判決を非難することは、上告適法の理由とならない。
論旨は、これを採用し得ない。
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同第三点について。
論旨は、被上告人が本件建物の賃料として供託した金額は、右統制令による賃料
額に充たないものであるから、右措置につき被上告人に過失があるものとすべきで
あるにも拘らず、原審がこの過失を否定し、右供託に弁済の効力を認め、上告人の
なした本件賃貸借解除の効力を否定したのは、民法五四一条に違反すると主張する。
原判決によれば、原審は、上告人より被上告人に対し、昭和二六年一二月一日以
降同三一年七月末日に至る本件建物の賃料合計一四三、五六四円の支払を催告した
こと、被上告人より同二六年一二月分の賃料三、〇〇〇円を既に支払つて居つたこ
と、被上告人において、所轄の田川市役所の係員につき本件建物の賃料統制額を調
査した上、右係員の指示した統制額にしたがつて昭和二七年一月一日以降同三一年
七月末日に至る賃料合計一〇〇、六〇一円より同期間の賃料として既に供託してあ
つた合計二九、四四三円を差引いた残額七一、一五八円を弁済のため現実に提供し
たけれども、上告人においてその受領を拒絶したので、催告期間内である同三一年
七月二七日弁済のため供託したこと及び以上合計の支払賃料額は前記統制法令にし
たがつて算出せられる同期間内の賃料統制額より五、二〇六円の不足あることを認
定し、右確定の事実関係に基き、被上告人の本件賃料の提供は、完全な履行の提供
とは必ずしもいえないけれども、法律の専門家でない被上告人に対し、所論統制令
に適合する本件建物の正確な賃料統制額の算出を求めることは、不可能を強制する
に等しく、被上告人としては、前記係員の指示する所を正当と信ずるの外途なく、
被上告人に債務履行の不完全なることにつき故意過失の責任を負担せしめ得ない旨
判断して居る。債務額に僅少な不足のある金額を提供しても、これを無効の履行提
供とすることが却つて信義に反する事情あるときは、その効力を認むべきものであ
ることは、判例の趣旨とする所である。(大正九年(オ)第六六二号同年一二月一
八日大審院判決、録二六輯一九四七頁、昭和八年(オ)第一一六号同九年二月二六
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日大審院判決、集一三巻三六六頁、昭和一三年(オ)第一二三号同年六月一一日大
審院判決、集一七巻一二四九頁参照)一〇〇、六〇一円の債務に対し五、二〇六円
を不足する金額を提供したものであり、完全な履行をなすべく可能な限り注意のな
された本件において、原審の判断は相当であるとせねばならない。履行の提供があ
つたとして、上告人に対し本件建物の賃貸借契約解除権を否定した原審に、所論の
違法があるとなし得ない。
論旨は理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 石 坂 修 一
裁判官 島 保
裁判官 河 村 又 介
裁判官 垂 水 克 己
裁判官 高 橋 潔
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